クチコミマーケティング効果をアカデミックに考えてみる!ソーシャルメディア×PR×広告施策の活かし方がわかる研究を解説!
本記事で解説する論文
今回取り上げるのは、Michael Trusov、Randolph E. Bucklin、Koen Pauwelsによる論文「Effects of Word-of-Mouth versus Traditional Marketing: Findings from an Internet Social Networking Site」です。発表年は2009年、公開元はJournal of Marketing、
DOIは https://doi.org/10.1509/jmkg.73.5.90
です。研究分野は口コミ研究、デジタルマーケティング、消費者行動です。
この論文は、SNS上の紹介や招待といった口コミが、新規ユーザー獲得にどれだけ効くのかを、従来型マーケティング施策と比較した研究です。感覚的に「口コミは強そう」と語るのではなく、実際の会員獲得データを使って、持続性や反応の大きさまで検証している点に価値があります。
用語解説
- 口コミ(Word of Mouth, WOM)
- 既存顧客や利用者が、知人や周囲にサービスを勧める行動です。この論文では、SNS上で既存会員が送る招待が観測可能な口コミとして扱われ、広告との違いを比べる軸になります。
- キャリーオーバー効果
- 施策を打った直後だけでなく、その後もしばらく効果が残ることです。PRや広告では単発の反応だけ見がちですが、この論文は口コミのほうが効果の持続が長い点を示しています。
- 反応弾力性
- 施策量が増えたときに成果がどれだけ伸びるかを見る考え方です。予算や工数をどこに配分すべきかを判断するうえで重要で、この研究では口コミの効率性を測る物差しになっています。
- VARモデル
- 複数の時系列データが互いに影響し合う関係を分析する手法です。新規登録が増えると口コミも増える、といった循環関係があるため、この研究では単純相関ではなくVARで因果に近い構造を追っています。
研究背景と課題
2000年代後半あたりから、SNSの成長とともに、企業は広告だけでなくユーザー同士の紹介や共有に注目するようになりました。ただし実務では、口コミが本当に新規獲得に効いているのか、それとも広告で認知が増えた結果として口コミも増えているだけなのかが見えにくいという問題がありました。
特にPRやマーケティングの現場では、紹介キャンペーン、SNSシェア、コミュニティ施策に工数をかけても、効果測定は後回しになりがちです。著者たちは、SNSサービスでは既存会員からの招待履歴を追跡できることに着目し、口コミと従来施策を同じ土俵で比較できると考えました。ここがこの研究の出発点です。
研究の内容
研究方法
研究対象は、あるインターネット上のソーシャルネットワーキングサイトです。著者たちは、既存会員が送った招待数、従来型マーケティング施策の動き、新規会員登録数という複数の時系列データを集め、それらの関係を分析しました。
ポイントは、口コミ、新規登録、通常のマーケティング活動が相互に影響し合う前提を置いたことです。たとえば登録者が増えれば紹介する人も増えますし、広告で流入した人があとで口コミの発信者になることもあります。そこで論文ではVARモデルを使い、単発の効果ではなく、時間をまたいだ波及まで含めて評価しています。
結果と考察
分析の結果、口コミによる紹介は、従来型マーケティングよりも効果が長く残りやすく、反応弾力性も高いことが示されました。要するに、広告は打った直後の反応を取りやすい一方で、口コミは広がるまでに少し時間がかかっても、後から効き続けやすいということです。
また著者たちは、新規会員が将来生む広告収入を前提に、1件の口コミ紹介が持つ金銭価値の上限も試算しています。ここから読めるのは、紹介施策を設計する際に「何となく紹介してもらう」のではなく、どこまでインセンティブを出しても採算が合うかを考えられるという点です。
PR・マーケティングの観点では、口コミは単なる副次効果ではなく、獲得チャネルとして設計対象にできると示した点が重要です。特に信頼が重要なサービスでは、広告の認知拡大と、利用者が他者に勧めやすい体験設計を分けて考える必要があるとわかります。
PR・マーケティング施策へのヒント
実務で活かせるポイント
第一に、SNS運用やPR施策では、広告配信だけでなく紹介されやすい導線をKPIに入れる価値があります。たとえば資料DL後のシェア導線、既存顧客からの招待機能、導入事例の共有しやすさなどです。
第二に、口コミは短期刈り取りより中長期の波及に向くため、広告と同じ評価期間で切らないほうがよいです。CPAだけで即断すると、後から効く紹介効果を見落としやすくなります。
第三に、紹介施策は「誰が誰に伝えるか」まで設計したほうが成果につながります。論文自体はSNSサービスの会員獲得が対象ですが、BtoBでも、既存顧客が同業他社に勧めやすい導入ストーリーや比較観点を整えることは同じ発想です。
村上崇の視点
この研究はソーシャルメディアを対象にして、特定のユーザー、特定の商材で行っているため、すべてのサービスや商材にあてはまるわけではありませんが、昨今当たり前になっている有償のインフルエンサー施策などは、「本当にそうおもっているのかよ」という通販番組の司会や客のリアクションに感じる、あの不自然さを感じる人は多いですよね。当然、信頼感が損なわれると、PR上は逆効果になる可能性があります。口コミを獲得するのはソーシャルメディア上の実務では、紹介率だけでなく、紹介後の継続率やブランド印象も合わせて見るべきですよね
よくある質問
Q. この研究は「広告より口コミのほうが常に強い」と言っているのですか?
A. そこまで単純ではありません。論文が示したのは、対象となったSNSサービスでは口コミの持続効果と反応弾力性が大きかったということです。短期の認知拡大では広告が有効な場面もあります。
Q. PR施策ではどこに応用しやすいですか?
A. 利用者の紹介が次の接点を生みやすい施策です。たとえばイベント参加後の共有導線、顧客事例の発信、SNSで語りやすい体験設計などは、この研究の示唆と相性がよいです。
Q. BtoBマーケティングにも使えますか?
A. 使えます。BtoBは購買まで長いぶん、信頼できる紹介や実名の推薦が効きやすい場面があります。既存顧客が紹介しやすい資料、比較表、導入ストーリーを整える発想は有効です。
Q. 紹介キャンペーンに報酬をつけるべきでしょうか?
A. つける余地はありますが、論文が直接「この報酬額が最適」と示しているわけではありません。将来価値とのバランスを見ながら、自然な推薦を壊さない範囲で設計するのが現実的です。
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