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アイデンティティ・シグナリングとは?『あえて多数派とずらす消費者心理』をPR・マーケティング視点で解説!

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本記事で解説する論文

論文名:Where Consumers Diverge from Others: Identity Signaling and Product Domains
著者:Jonah Berger, Chip Heath
発表年:2007年
公開元:Journal of Consumer Research
URL / DOI:https://doi.org/10.1086/519142
研究分野:消費者行動、ブランディング、社会心理学、口コミ・拡散研究

この論文は、消費者がいつも多数派に流されるわけではなく、自分らしさを示したい商品カテゴリでは、むしろ多数派から距離を取ることを示した研究です。音楽や髪型のように「その人らしさ」が見えやすい領域では、人気が出すぎた選択肢を避けたり、自分と違う集団に広がった選択肢を手放したりします。皆さんもその経験ありますよね?

ブランドの差別化、SNS設計、PR文脈での見せ方を考えるうえで示唆の多い論文です。

用語解説

アイデンティティ・シグナリング
商品や好みを通じて「自分はどういう人か」を周囲に伝えることです。この論文では、消費者が商品を選ぶ理由を、単なる機能比較ではなく自己表現の観点から捉えています。
参照集団
自分が近いと感じる集団や、逆に距離を置きたい集団のことです。本研究では「誰がその商品を好んでいるか」が選択に影響し、特に自分と異なる集団との結びつきが避けられる点が重要です。
アイデンティティ関連カテゴリ
音楽、服装、髪型のように、選ぶだけでその人の価値観や雰囲気が推測されやすいカテゴリです。この論文の中心は、こうしたカテゴリでは多数派の人気が逆効果になる場合があるという点にあります。
Need for Uniqueness
他人と違っていたい傾向を指す概念です。ただし論文では、個人差だけでは説明しきれず、どのカテゴリが自己表現に使われるかという文脈が同じくらい重要だと示されています。

研究背景と課題

マーケティングでは、長く「多くの人に選ばれているものはさらに選ばれやすい」と考えられてきました。たしかに、洗剤や家電のように機能比較が中心の領域では、人気は安心材料になりやすいです。しかし現実には、音楽、ファッション、ブランドの好みのような領域で、人気が出すぎると急に魅力が落ちる現象があります。

著者たちが問題にしたのは、この違いを従来の「人は他者に同調する」「人には個人差として独自性欲求がある」という説明だけでは十分に扱えないことでした。なぜ同じ消費者でも、ある商品では多数派に乗り、別の商品ではあえて外すのか。そこにあるのは、機能評価の差というより、その選択が自分をどう見せるかという社会的な意味ではないか。これが研究の出発点です。

研究の内容

研究方法

論文では4つの研究が行われました。まず研究1では、米国内の幅広い成人サンプルに対して、19のカテゴリごとに「65%の人が選ぶ案」「25%の人が選ぶ案」「10%の人が選ぶ案」を提示し、どれを選ぶかを比較しました。同時に、そのカテゴリがどれだけ自己表現や他者理解に使われるかも別サンプルで評価しています。

研究2では、スタンフォード大学の学生にいったん好きなブランドやアーティストを選ばせ、2〜3週間後に「あなたの選択は多数派とかなり重なっていた」と思わせる情報を見せたうえで、好みを変えるかを調べました。単なる初回選択ではなく、いったん選んだものを捨てるかを見た点が重要です。

研究3では、「少数派の選択肢」がどの集団と結びついているかを操作しました。つまり、少数派であること自体が魅力なのではなく、それが自分の内集団を示すのか、外集団を示すのかで反応が変わるかを検証しています。研究4では、同じデジタル音楽プレイヤーでも、機能商品として考えさせるか、自己表現の道具として考えさせるかを変え、文脈によって反応が動くかを確かめました。

結果と考察

結論は明快です。人はいつでもユニークなものを選ぶわけではありません。自分らしさが見えるカテゴリでだけ、多数派との距離を取りやすくなるのです。研究1では、少数派の選択肢を選んだ割合が、アイデンティティ関連カテゴリでは31%、そうでないカテゴリでは16%でした。つまり「少数派だから選ぶ」のではなく、「そのカテゴリが自己表現に使われるから選ぶ」と解釈できます。

研究2では、多数派と好みが重なっていると知らされた参加者は、自己表現性の高いカテゴリで好みを変えやすくなりました。これは、人気化そのものが悪いというより、その選択肢が自分をうまく語れなくなると感じたときに離反が起きることを示しています。

さらに研究3と研究4は、誰がその商品を選んでいるかが重要だと示しました。自分に近い集団が持つ少数派の選択肢は魅力になりやすい一方、異なる集団を強く想起させると評価が下がります。つまりブランドや商品は、市場シェアだけでなく、どの文脈で、誰のものとして見えるかでも価値が変わるのです。

皆さんも、例えば、「これならかっこいいし、ほとんど街でもみないから、誰とも被らない」と思って買ったスニーカーが、言葉は悪いですが、すごくダサいオタク系の人が同じスニーカーを履いているのを見て、「しまった」と思ったことはないでしょうか?スニーカー好きの僕はこの経験かなりあります。。。

PR・マーケティング施策へのヒント

実務で活かせるポイント

第一に、ブランドを広げるときは「認知拡大」だけでなく「誰のブランドに見えるか」を同時に管理する必要があります。自己表現性の高いブランドほど、マス化の途中でコア顧客が離れるリスクがあります。SNS施策やインフルエンサー起用では、単純なリーチ最大化よりも、どの人に、また、どの集団に所有されているように見えるかを設計したほうが実務的です。

第二に、広告やPRで使うメッセージは、機能訴求と自己表現訴求を分けて考えるべきです。論文の研究4は、同じ製品でも「自分を表すもの」として捉えさせた瞬間に、周囲の利用者像の影響が強まることを示しました。ブランドキャンペーンで個性や価値観を前面に出すなら、起用人物、コミュニティ、UGCの見せ方まで含めて統一感が必要です。

第三に、BtoBでも応用余地はあります。企業の導入事例や顧客コミュニティが「自社はどのタイプの企業か」を示すシグナルになる商材では、単に導入社数を誇るより、どんな思想や成長段階の企業に支持されているかを見せたほうが刺さる場面があります。

村上の視点

この研究は、どんな商品でも少数派戦略が有効だと言っているわけではありません。洗剤や保険のように、まず機能信頼が重視されるカテゴリでは、多数派の安心感が依然として強いはずです。したがって実務では、自社カテゴリがどれだけ自己表現に使われるのかを見極めることが前提になりますね。

また、研究参加者は主に米国の成人や学生であり、文化や世代によって反応は変わる可能性があります。さらに、論文が扱うのは好みや評価の変化であり、長期の売上効果まで直接測っているわけではありません。実装する時は、ブランドリフトやコミュニティ反応を追いながら、小さく検証するに越したことはありません。

よくある質問

Q. 人気ブランドになると飽きられる、と言えますか?

A. 必ずではありません。論文が示しているのは、自己表現性の高いカテゴリでは「人気が出すぎると自分らしさを示しにくくなる」ため、離反が起こりやすいということです。機能重視カテゴリでは逆に人気が安心材料になる場合があります。

Q. SNS施策ではこの「アイデンティティ・シグナリング」どう使えますか?

A. 誰に拡散されるかの設計に使えます。単純に露出を増やすより、ブランドの世界観と相性のよいコミュニティや発信者に広がるよう設計したほうが、コア顧客の離反を防ぎやすいと考えられます。

Q. BtoBマーケティングでも関係ありますか?

A. あります。SaaSや採用広報のように、導入企業や利用企業そのものがブランドシグナルになる領域では、「どんな会社が選んでいるか」が意思決定に影響します。導入社数だけでなく顧客像の見せ方が重要です。

Q. 実務では何から検証するとよいですか?

A. まずは自社商品が「機能で選ばれる」のか「自分らしさを表す」のかを整理することです。そのうえで、訴求軸ごとにクリエイティブ、起用人物、配信先コミュニティを変え、反応差を見るのが取り組みやすい方法です。

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著者

株式会社カーツメディアワークス
代表取締役

村上 崇

実績

  • 大手グローバルIT企業のマーケティング戦略
  • 国内上場企業の広報部立ち上げ支援
  • 最大手美容外科の広報戦略
    等多数
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