SNSの「いいね」は売上につながるのか?ブランド好意と購買への本当の効果を解説!
定期的に世の中で発表されているPRやマーケティング、ソーシャルメディア、コンテンツマーケティングの論文を取り上げて、自分なりに解説するコラムです。ここで得られた示唆を自社の業務に生かしたいと考え、この論文解説をすることにしました。ぜひ見てもらえると嬉しいです。
本記事で解説する論文
論文名:Does “Liking” Lead to Loving? The Impact of Joining a Brand's Social Network on Marketing Outcomes
著者:Leslie K. John, Oliver Emrich, Sunil Gupta, Michael I. Norton
発表年:2017年
公開元:Journal of Marketing Research
URL / DOI:https://doi.org/10.1509/jmr.14.0237
研究分野:SNSマーケティング、ブランド評価、消費者行動
この論文は、ブランドのFacebookページに付く「いいね」が、本当にブランド好意や購買を増やすのかを検証した研究です。5つの実験と2つのメタ分析を通じて、SNS上の「いいね」は因果的な効果というより、もともとそのブランドが好きな人を可視化しているだけの面が大きいと示しました。SNS運用でありがちな「ファン数の多さ」を、どう評価すべきかを考えるうえで実務的な示唆が大きい論文です。
用語解説
- 選択効果(selection effect)
- ある行動が結果を生んだのではなく、もともとその行動を選ぶ人が特定の特徴を持っていた、という考え方です。この論文では「ブランドが好きだからページにいいねするのであって、いいねしたから好きになるわけではないのでは」という論点の中心になります。
- 因果効果(treatment effect)
- 特定の施策そのものが態度や行動を変えたかを指します。本研究では、ブランドページへの参加を促すこと自体が購買や好意度を押し上げるかを見ています。
- 社会的エンドースメント
- 友人や周囲の人がそのブランドを支持しているというシグナルです。ただし本研究では、SNS上の軽い「いいね」と、会話や実利用に近い濃い推薦では重みが違うことが示されました。
研究背景と課題
2010年代半ば、企業はFacebookのファン獲得に大きな予算と人員を投じていました。実務では「いいねが増えればブランド好意が高まり、友人にも波及し、売上にも効く」という期待が強く、KPIもファン数や反応数に寄りがちでした。
ただし、その見方には大きな弱点があります。ブランドページをフォローする人は、最初からそのブランドに好意的な可能性が高く、成果が出ているように見えても、施策の効果ではなくもともとの好意を見ているだけかもしれません。著者たちはこの点を切り分け、「SNS上のつながりそのものにどこまで価値があるのか」を実験的に確かめようとしました。
研究の内容
研究方法
研究では、コカ・コーラやペプシのような既知ブランドに加え、より新奇性のあるブランドも使いながら、参加者を複数条件に割り付けました。代表的な実験では、ブランドページにいいねを付けてもらう群、付けようとしたがシステム上できなかった群、そもそも付けない群を比べ、ブランド好意、購買意向、クーポン利用などの差を測定しています。
また、広告接触を組み合わせた条件や、時間を置いて効果を見る条件も用意し、「いいね単体では弱くても、その後の接触と合わされば効くのではないか」まで検証しています。さらに友人への波及も調べるため、ある参加者の友人に対し、「このブランドを友人がFacebookでいいねしている」と伝える条件と、「友人が実際にこのブランドを好きだと言っている」と伝える条件を比較しました。実験結果を横断的に見るため、著者らは複数研究のメタ分析も行っています。
結果と考察
結論はかなり厳しめです。ブランドページへのいいね自体には、ブランド評価や購買を安定して押し上げる効果は見られませんでした。効果があるように見える場面でも、それは「もともと好きな人がいいねしやすい」という選択効果でほぼ説明できる、というのが著者たちの解釈です。
| 検証テーマ | わかったこと | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 本人への効果 | いいねだけでは好意度や購買はほぼ上がらない | ファン数を成果指標にしすぎない |
| 広告との組み合わせ | 広告は効いても、いいねの追加効果は限定的 | SNS接点は単独で過大評価しない |
| 友人への波及 | 友人の「Facebookでいいね」より、実際の好意表明のほうが強い | 軽い反応より、具体的な推薦体験を設計する |
特に重要なのは、SNS上の可視化された反応が、必ずしも強い推薦にはならない点です。クリック一つの支持は低コストであるぶん、受け手から見ると情報価値が低い可能性があります。言い換えると、「見かけ上の支持」と「行動を伴う支持」は別物だということです。
PR・マーケティング施策へのヒント
実務で活かせるポイント
この研究からまず学べるのは、SNS運用のKPI設計です。ファン数、フォロー数、いいね数を主要成果として置くより、資料請求、指名検索、保存、シェア、指名買い、紹介発生といった次の行動を見たほうが実態に近いはずです。
また、友人への波及を狙うなら、単に「いいねしてください」と促す施策より、体験談、レビュー、利用シーン、比較理由など、言葉にしやすい素材を用意したほうが有効だと考えられます。BtoBでも同様で、SNSフォロワーの増加そのものより、導入事例の共有、担当者の推薦コメント、セミナー後の紹介といった濃いシグナルのほうが商談にはつながりやすいでしょう。
導入時の注意点
ただし、この論文をもって「SNS運用は無意味」と結論づけるのは行き過ぎです。ここで否定されているのは主にいいね単体の直接効果であり、SNSが接点形成、広告配信、顧客理解、コミュニティ運営に持つ価値まで否定しているわけではありません。
また、研究の主舞台はFacebookです。現在のInstagram、TikTok、X、LinkedInとはUIも文化も異なるため、そのまま同一視はできません。ただ、軽いエンゲージメントを売上と短絡的に結びつけない、という原則は今でも十分有効です。
よくある質問
Q. いいね数はKPIから外したほうがよいとおもいますか?
A. いいえ、この論文にもある通り、認知の広がり好意度、反応の軽さを見る指標として使うのがいいと思います。マーケティング視点では、問い合わせや購買など下流にくる指標とセットで見るべきですね。
Q. この研究は今のSNSにも通用しますか?
A. もちろん通用すると思います。今、日本のFacebookページへのいいね!は限定的ではありますが、各ソーシャルメディア共通で同様のことがいえると思います。媒体差はありますが、「低コスト(低労働)な反応は推薦の強さと一致しない」という示唆は有効です。保存、UGC投稿、DM共有、レビュー投稿など、より重い行動との差を分けて考えると応用しやすいのではないでしょうか。
Q. PR施策では何に置き換えて考えるとよいですか?
A. 例えば、掲載記事を広報としてシェアした投稿でいえば、いいね!やお気に入り、などソーシャルメディア上の軽い賛同より、メディア掲載の引用、推薦コメント、掲載記事の引用、などしてもらった共有のほうが強い波及を生みやすい、評価すべきだと思います。
Q. 実務でまず見直すべき点は何ですか?
A. ソーシャルメディアのKPI設計です。フォロワー数やいいね!数、お気に入り数などSNSアカウントの成長報告が反応数中心になっている場合は、仕方ないかもしれませんが、指名検索、遷移後の行動、商談化、紹介率までつながる導線とは何か?を前提に考え直すのが第一歩だと思います。
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