ブランディングとPRの関係性とは?企業価値を最大化する戦略的アプローチ

急速なAIの普及とデジタル化(DX)が進む現代のビジネス環境において、企業の持続的成長には「ブランディング」と「PR(パブリックリレーションズ)」の戦略的活用が不可欠です。しかし、多くの企業がこれらの概念を混同し、本来得られるはずの相乗効果を十分に活用できていないのが実情ではないでしょうか? 本記事では、ブランディングとPRの本質的な違いを解説し、両施策を統合することでブランド価値を最大化する具体的な方法を提示します。
ブランディングとPRの本質的な違い
それぞれの定義と役割について
ブランディングとは
ブランディングは、企業・商品・サービスに対する顧客の認識と感情を戦略的に形成する活動です。単なるロゴやデザインの統一ではなく、顧客の心の中に独自のポジションを確立し、長期的な競争優位を構築することを目的としています。いわば「記憶」づくりといえるでしょう。
覚えておきたいポイント
- ブランドアイデンティティ=「どう思ってもらいたいか?」の明確化・確立
- 顧客との感情的つながり=「好感」の構築
- 一貫性のあるブランド体験=「らしさ」を生み出す統一された体験価値の提供
PRとは
PR(パブリックリレーションズ)は、企業とステークホルダー間の相互理解と信頼関係を構築する戦略的コミュニケーション活動です。もっと簡単にいえば、第3者の評価を得るために報道・メディアなどのパブリシティ(記事露出・番組露出)を獲得し、良い評判を生み出していくことと覚えてもらって間違いないです。
広告のように一方的な情報発信ではなく、メディアやステークホルダーと双方向の対話を通じて長期的な関係性を育むことに重点を置いています。
覚えておきたいポイント
- メディアリレーション=報道関係者との信頼構築
- ステークホルダーとのコミュニケーション=顧客・株主・従業員・その家族・地域などとの信頼構築
- 危機管理・レピュテーション管理=世間の評判を把握して被害を最小化するコミュニケーション
ブランディングとPRの違いとは?
ブランディングとPR(Public Relations)は、企業の認知度向上とイメージ形成において密接に関連していますが、その目的と手法には明確な違いがあります。
ブランディングとPRの主な違い
特徴 | ブランディング | PR(Public Relations) |
目的 | 企業の自己定義、長期的なブランドイメージ構築、競争優位性の確立 | 情報伝達、認知度向上、世論形成、ステークホルダーとの関係構築 |
主体 | 企業自身がコントロールする活動 | 企業から外部への働きかけ、メディアを通じた第三者の視点 |
手法 | ロゴ、デザイン、メッセージ、顧客体験、企業文化など多岐にわたる | プレスリリース、記者会見、メディア対応、イベント、SNSなど |
視点 | 企業が「どう思ってもらいたいか」という主観的な視点 | 社会やメディアが「どう報じるか」という客観的な視点(を意識) |
成果 | 顧客ロイヤルティ、ブランド価値、市場でのポジショニング | メディア露出、報道内容、世論、社会からの評価 |
期間 | 長期的かつ継続的な取り組み | 短期的な情報伝達から長期的な関係構築まで様々 |
このように、ブランディングは企業の「核」となるアイデンティティを形成する活動であり、PRはそのアイデンティティを社会に伝え、理解を深めてもらうための「手段」と位置づけられます。
両者は相互に補完し合う関係にあり、戦略的に連携させることで、企業の価値を最大化し、持続的な成長を実現することが可能となります。
ブランディングとPRの戦略的統合によるシナジー効果

統合アプローチの重要性
ブランディングとPRを独立した活動として捉えるのではなく、戦略的に統合することで以下のシナジー効果が期待できます。
相乗効果の5つのメリット
- メッセージの一貫性
- ブランドアイデンティティ(ターゲットにどう思われたいか?)に基づく統一された情報発信
- ステークホルダー間での認識のズレを防止
- リーチの最大化
- ブランディングの自主的アプローチとPRの第3者アプローチの組み合わせ
- 多様なチャネルを通じた効果的な情報伝達
- 信頼性の向上
- 広報活動の第三者評価による信頼獲得
- 一貫したブランドメッセージで信憑性を強化
- コスト効率の改善
- 重複する活動の統合による効率化
- ブランディングおよびマーケティング予算・リソースの最適配分
- 長期的価値の創出
- 短中期的なPR効果と長期的なブランド価値の両立
- 持続的な企業成長の実現
ブランディングとPRの統合戦略設計のロードマップ
企業価値最大化には、ブランディングとPRを統合した戦略が不可欠です。このロードマップは、持続的成長と影響力獲得のための具体ステップを示します。
ステップ1:現状分析と目標設定
現状把握から始めます。
- 内部環境分析: 企業理念、SWOT、企業文化、競合を分析し、自己認識を深めます。
- 外部環境分析: ターゲット、市場トレンド、メディア環境を理解し、ステークホルダーへの理解を促進するためのタッチポイントをペイドメディア(広告)、オウンドメディア(自社Webサイト)、アーンドメディア(広報やSNS)に分けて考えています。
- 具体的な目標設定: ブランディングとPRのKGI、KPIを設定。
ステップ2:コアメッセージとブランドストーリーの策定
一貫性のあるメッセージ構築が重要です。
- ブランドアイデンティティ定義: ブランドパーソナリティ、価値提案、プロミスを明確化。
- コアメッセージ開発: シンプルで記憶に残るメッセージ、USPを策定。
- ブランドストーリー構築: 共感を呼ぶナラティブを多角的視点から展開し、社会貢献要素も組み込みます。
ステップ3:戦略的PR計画の立案と実行
定義されたメッセージを広報として理解してPR戦略を構築
- 広報コンセプトの確立:ブランドアイデンティティをタッチポイントに落とし込むために必要な「広報コンセプト」を作る
- マスメディア向け広報戦略:テレビ、新聞、雑誌、ラジオなど旧来のマスメディアの露出戦略を考える
- コンテンツ戦略とデジタルPR: オウンドメディア、SNS、インフルエンサーなどWeb上、デジタル上でのタッチポイントを生み出す
- メディアリレーション戦略: ターゲットメディア選定、メディアキット作成、関係構築、危機管理計画。
- 啓蒙・啓発型PR戦略:コーポレートPR(企業広報)やマーケティングPR(製品・サービスPR)だけでなく、市場を広げる、または市場のトップリーダーを確立するための啓蒙・啓発型PR戦略も想定して考える。
- インターナルPR強化: ブランドアイデンティティを従業員に浸透させるためにインターナルPRも強化。例えば社内の「ブランドアンバサダー」を育成するなどモチベーション向上施策を検討
- メディアイベントや体験価値の提供:情報体験を向上させるためにどういったブランド体験を生み出せばいいのか?を考える
ステップ4:効果測定と改善
継続的な評価と改善が成功の鍵です。
- KPIに基づいた効果測定: ブランド認知度、メディア露出、ウェブサイトアクセス、SNSエンゲージメント、顧客・従業員アンケートなど。
- PDCAサイクル実施: 計画、実行、評価、改善を繰り返します。
- 継続的な改善と適応: 環境変化に対応し、戦略を柔軟に調整します。
実践的な活用フレームワーク
戦略立案のためのブランドピラミッド手法とは
ブランドアイデンティティの体系化を理解するために、ブランドピラミッド手法は非常に有効なフレームワークです。この手法を用いることで、ブランドの核となる要素から具体的な表現までを段階的に定義し、一貫性のあるブランドイメージを構築できます。
ブランドピラミッド手法とは
ブランドピラミッドは、以下の4つの階層から構成されており、下から上へ向かってブランドの抽象度が高まります。
- 商品・サービス属性|企業・組織属性(Attributes)
- これはブランドの最も基礎となる部分で、製品やサービスが持つ具体的な特徴や機能、企業の組織としての特性を指します。
- 例:高品質な素材、独自の技術、優れたデザイン、環境への配慮、長年の歴史、顧客志向のサービス体制など。
- ここがしっかり定義されていることで、次のベネフィットへと繋がります。
- 機能的ベネフィット|情緒的ベネフィット(Functional & Emotional Benefits)
- 機能的ベネフィット: 商品やサービスが顧客に提供する実用的な価値や問題解決能力を指します。
- 例:作業効率の向上、時間の節約、コスト削減、高い耐久性、使いやすさなど。
- 情緒的ベネフィット: 商品やサービスを通じて顧客が得られる感情的な充足感や心理的な価値を指します。
- 例:安心感、信頼感、喜び、ステータス、自己表現、コミュニティへの帰属意識など。
- これらのベネフィットは、属性から派生し、顧客にとっての「なぜそのブランドを選ぶのか」という理由付けになります。
- 機能的ベネフィット: 商品やサービスが顧客に提供する実用的な価値や問題解決能力を指します。
- ブランドパーソナリティ(Personality)
- ブランドがもし人間であったらどのような性格を持つか、という側面を表現します。顧客がブランドに対して抱く印象や感情を形成する上で非常に重要です。
- 例:革新的、信頼できる、親しみやすい、洗練された、冒険的、誠実など。
- ブランドパーソナリティは、広告のトーン&マナー、コミュニケーションスタイル、デザイン要素など、ブランドが発信するあらゆるメッセージに反映されるべきです。
- ブランドエッセンス(Essence)
- ブランドピラミッドの頂点に位置し、ブランドの核となる本質、唯一無二の価値、最も重要な約束事を簡潔に表したものです。ブランドが提供する究極的な価値や顧客体験を要約したものであり、ブランドの精神とも言えます。
- 例:「安心と信頼」、「創造性と喜び」、「無限の可能性」など。
- ブランドエッセンスは、ブランド戦略の羅針盤となり、全てのブランド活動の方向性を決定づける最も重要な要素です。
これらの階層を明確に定義し、一貫性を持たせることで、ブランドは市場において独自の立ち位置を確立し、顧客の心に深く響く強力なブランドアイデンティティを築くことができます。これは、単なる製品の認知度向上だけでなく、顧客ロイヤルティの構築、企業価値の向上にも繋がる戦略的なプロセスです。
B. ステークホルダー分析マトリックス
ステークホルダー | 影響度 | 関心度 | 推奨アプローチ |
既存顧客 | 高 | 高 | 積極的な関与・深い関係構築 |
潜在顧客 | 中 | 中 | 関心喚起・教育的アプローチ |
業界メディア | 高 | 中 | 定期的な情報提供・専門性訴求 |
投資家・株主 | 高 | 高 | 透明性重視・定期的な業績報告 |
従業員 | 高 | 高 | 内部コミュニケーション強化 |
取引先・パートナー | 中 | 中 | 相互利益重視・協働関係構築 |
地域社会 | 中 | 低 | 社会貢献活動・地域密着施策 |
規制当局 | 高 | 低 | 法令遵守・積極的な情報開示 |
成功事例について
結婚・婚活業界の事例
背景・課題:約15年ほど前の事例ではあるが「ブランディング施策と啓蒙型PR」を同時に進めた事例として
- 設立4年目、従業員50名のAIソリューション企業
- 大手IT企業との差別化が困難
- 技術力の高さが市場に伝わっていない
実施内容
ブランディング施策:クライアントのブランドマネージャーが主軸となり、「1年婚活」というコンセプトを打ち出し、会員期間を長期間にさせない、「1年以内に成婚できること」を訴求する
- 「1年婚活」というコンセプト
- Web、OOHをメインとしたタッチポイントの創出
- 「婚活」というキーワードが普及してきた時期に一気に展開
PR施策:大々的な広告展開にあわせて、様々なメディア露出案を展開
- 広告露出に合わせてPR露出を強化
- サービス単体ではなく「男女の意識調査」を毎月実施しニュースレターで発表
- 調査結果を「婚活総研」というサードメディアにまとめて取材誘致(メディアインバウンド)を強化
成果:民放テレビ局、新聞、雑誌など様々なメディアで取り上げられWebへのアクセスが大幅に向上
- NHK、テレビ朝日、日テレの情報番組など複数の番組に「婚活イベント」を取り上げてもらい、「結婚相談所」から「婚活企業」としての認知を広げることに成功
- テレビやWebメディアを見た人が検索し、アクセス増加が大幅に改善
- 「婚活総研」の調査結果がきっかけとなり、取材問い合わせが増加し、媒体掲載数が月1-2件から月平均25件以上に改善
- ブランド広告、刈り取り型広告の効果をPRで増幅することに成功した
大手製薬会社の事例
背景・課題:社内カルチャーを発信して、求人増加・離職率の低下につなげたい
- グローバル製薬企業の日本支社(従業員3000名)
- 製品の広報ではなく、コーポレート広報としてデジタル化を推進
- 一般ビジネスマンおよび若年層への認知度が低い
実施内容
ブランディング施策:社内ライブニュース番組でインナーコミュニケーション施策を強化
- 1ヶ月の社内ニュースをまとめて「報道番組」のようにライブ配信
- プロの報道番組制作会社・有名女性アナウンサーを起用して見てもらう工夫を実施
- 毎月変わるマネジメントサイドの考え方やプライベートまで知って頂く
PR施策:外部向け施策として「製薬」以外の業界の人にも企業カルチャーを知っていただくことが目的
- 外部向け発信として、「ビジネス業界・医療業界」のトップリーダーをお招きして独自のYouTube番組を展開
- Facebookページを起点としたコーポレートカルチャーの情報発信を強化
- 各団体、事業部とも広報会議を開催し、幅広い情報を集約して定期的に発信
成果:インナー・アウターブランディング(コンテンツマーケティングがメイン)を数年にわたり実施し、合計20万人以上の人へのリーチに成功
- 社内ニュース番組は上層部に好評で、3ヶ月ほどの短期プロジェクトが年間で実施することが決定
- 社内ニュース番組視聴率は常に50%以上
- ブランディング動画(経営者インタビュー・医療従事者インタビュー)は10万回以上の再生回数を達成
効果測定と改善の仕組み

効果測定について
効果的な統合戦略には、ブランディングとPRの両面から成果を測定する仕組みが必要です。
【レベル1:認知・リーチ指標】
- ブランド認知度(自発想起・助成想起)
- メディア掲載数・インプレッション数
- ウェブサイト訪問数・ページビュー
- SNSフォロワー数・エンゲージメント率
【レベル2:理解・関与指標】
- ブランドイメージ調査
- メッセージ理解度・共感度
- SNSインタラクション率・コンテンツ滞在時間・回遊率
- イベント参加者数・満足度
【レベル3:行動・成果指標】
- ブランドロイヤリティ調査(ターゲットがどれほどブランドに忠誠心があるか)
- 購買意向・推奨意向(NPSなど)
- 売上・利益への貢献度
- 顧客生涯価値(LTV)
継続的改善プロセス(PDCAサイクルでブランディングとPRを未来につなげる)
本来、ブランディングおよびPR/広報戦略は、プロジェクトで短期的にやることではなく、企業が続く限り継続的に実施していくべき活動です。チームメンバーや内容は変わると思いますが、(むしろ、変えていくべきです)常に改善できる組織文化でありたいものです。ここでは改めて、「ブランディング×PR」のPDCAについて解説していきます。
Plan(計画)
- ブランディングとPRの四半期ごとの戦略レビュー
- KPI目標値の設定
- 施策ロードマップの更新/月次施策への落とし込み(タスクレベル)
Do(実行)
- 月次タスクの実行
- 進捗モニタリング体制・ツールの選択
- 日次・週次アクティビティ管理
Check(評価)
- 月次効果測定レポート/定例会議
- 四半期総合評価レポート
- 年次の戦略効果の振り返り
Action(改善)
- 施策内容の見直し・最適化
- チーム体制・リソース配分の見直し
- 戦略方向性の確認・調整・改善
データドリブンな意思決定
このPDCAを回す上で重要なことが「データドリブン」であることです。もし、社内およびパートナーにスター的な存在がいたとしても、その人の感覚だけに頼るのではなく、定量的なデータから改善活動できるようにチームメンバーに考え方を定着させるべきと考えています。
定量データの活用の種類について
- Googleアナリティクス等のウェブ解析
- ソーシャルリスニングツール(インタラクションやエンゲージメントの調査)
- ブランド調査・市場調査(パネル調査・デスクトップサーチ・指名検索数調査)
- CRMデータ分析(リード数・ランク別リード数・成約率やリピート率)
まとめ:ブランディングとPRの統合戦略による企業価値の最大化
ブランディングとPRの戦略的統合は、単なる施策の組み合わせではありません。企業の本質的価値を明確にし、ステークホルダーとの深い信頼関係を構築することで、持続的な競争優位を実現する包括的なアプローチです。
成功のための5つの重要ポイント
- 明確なブランドアイデンティティの確立 企業の存在意義と独自価値を明確化し、全ての活動の指針とする
- ステークホルダー中心の戦略設計 各ステークホルダーのニーズを深く理解し、適切なアプローチを選択
- 一貫性のあるメッセージ発信 チャネルや施策が異なっても、核となるメッセージは一貫して伝達
- データドリブンな効果測定 定量・定性の両面から継続的に効果を測定し、改善につなげる
- 長期視点での投資継続 短期的な成果に一喜一憂せず、長期的視点で投資を継続
デジタル化の進展により、ブランディングとPRの境界はますます曖昧になっています。しかし、だからこそ両者を戦略的に統合し、シナジー効果を生み出すことの重要性が高まっています。
企業は、従来の縦割り組織から脱却し、ブランディングとPRを統合的に推進する体制を構築することで、変化の激しい市場環境においても持続的な成長を実現できるでしょう。
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