メディアが飛びつく“トーストブーム”を創出!大手家電メーカーの高級トースターPR戦略とブランド認知拡大事例

概要
本事例は、大手家電メーカーが高価格帯トースターの認知度と売上を飛躍的に伸ばした、コンテンツマーケティングの成功事例である。
同社は、商品の直接PRではなく、商品を取り巻くライフスタイルやトレンドを先に広める戦略を採用。具体的には「トースト人気が高まっている」という社会的潮流を意図的に創出し、それを発信する「トースト専門Webメディア」を立ち上げた。アンケート調査やインフォグラフィック、専門家の立ち位置を持つ“トースト研究所長”を活用し、メディアが取り上げたくなるコンテンツを継続的に発信。結果として、テレビ・新聞・Webなど複数メディアで大きく露出し、高級トースターというニッチ市場で強力なブランドポジションを確立。最終的には販売ランキング上位に入り、一時的な品切れ状態を生むほどの販売成果を上げた。
課題
プロジェクト開始時点で直面していた最大の課題は、「高級トースター」というカテゴリーの認知度不足と売上低迷であった。
一般的にトースターは家電量販店に並ぶ日用品であり、価格差による差別化が難しいコモディティ商品とされる。さらに、生活必需品ではあるが、ニュースとして取り上げられる機会は少なく、単に「新製品を発売」と発表しても消費者やメディアの関心を引くのは困難であった。
加えて、商品は平均価格の約4倍という高価格設定。性能やデザインの優位性があっても、認知されなければ購買に至らず、販売チャネルの拡大にもつながらない。
このため、従来型の製品訴求ではなく、消費者のライフスタイルや食文化に訴えかける切り口が必要であった。しかも、メディアが自主的に取り上げたくなる話題性と社会的トレンドを作り出さなければならない、というハードルも存在した。
つまり課題は「ニュースバリューのない商品をどう話題化させ、自然な形でブランドと結びつけるか」という一点に集約された。
ソリューション
解決策として打ち出されたのは、「商品ではなくトースト文化そのものを盛り上げる」という逆転の発想だった。
まず、“トースト人気が広がっている”という事実を世の中に提示するため、トーストに関する多角的な情報を発信する「トースト専門Webメディア」を新設。このメディアでは、トーストの最新レシピ、調理のコツ、食パンの地域別人気傾向など、幅広いテーマを取り上げ、消費者にとって身近で楽しいコンテンツを提供した。
さらに、メディアとしての信頼性を高めるために「トースト研究所長」という専門家ポジションを設定。アンケート調査やデータ分析をもとに、トーストの消費動向や食文化的意義を解説し、ニュース性を付与した。
インフォグラフィック(情報を視覚化した図表)を活用し、SNSでも拡散されやすい形で情報を配信。これにより、報道番組や生活情報誌が「データを使わせてほしい」「取材したい」と自らアプローチしてくる仕組みを作った。
重要なのは、記事や取材の中で自然に高級トースターが紹介される導線を確保したことだ。トースト人気が社会的トレンドとして広まれば、その延長線上で「より美味しいトーストを焼く方法」として高級トースターが取り上げられる。この間接的な訴求により、押し付け感のない自然な商品露出を実現した。
結果・成果
この戦略は短期間で大きな成果を生んだ。
テレビでは情報番組を中心に9番組がトーストブームを特集し、その中で高級トースターが紹介された。紙媒体でも4本、Webメディアでは56本の掲載を獲得。特にSNS上では、インフォグラフィックや調査結果が多くシェアされ、一般消費者が自発的にトーストの話題を広める状態が生まれた。
結果として、高級トースターは「価格ドットコム」ランキングで上位にランクイン。平均価格の4倍という高価格にもかかわらず、一時的に売り切れとなるほどの販売結果を記録した。さらに、ブランド全体の認知度向上にも寄与し、他の家電製品にも好影響を与えた。
この事例の最大の学びは、「直接的な商品PRではなく、関連する文化やライフスタイルを先に広めることで、結果的に商品が売れる」というマーケティング手法の有効性である。特にコモディティ市場や高価格帯商品の場合、この“話題先行型”アプローチは、メディア露出と消費者関心の両立に有効だといえる。
今後も、この手法は食品、飲料、生活雑貨など幅広い分野に応用可能であり、「文化をつくるPR」として注目されるだろう。
著者
